経営通信2025年7月号「所得税のかからない範囲が拡大すると、『会社』はどうなる?」
所得税のかからない範囲が拡大すると、『会社』はどうなる?
「働き控え」が減り、シフト調整がしやすくなる
これまで「年収103万円の壁」を意識して就業調整(働き控え)をしていた人も少なくありませんでしたが、今回の改正により、「もっと働きたい」 という意向のある人に、より長い時間・より多くの日に働いてもらえることが期待できます。また、クリスマスや年末商戦の時期の「働き控え」が減ることも予想されます。
そのため、事業者側にとってはシフト調整等がこれまでよりもしやすくなるといえます。今のうちから従業員とコミュニケーションをとって、従業員の意向をヒアリングし、「今の時給で換算すると、あとどのくらい労働時間(日数)が増やせそうか」等について話し合っておきましょう。
社会保険に加入する人が増え、社会保険料の事業主負担が増える
「もっと働きたい」という人が増えると、社会保険に加入する人が増える可能性があります。その場合、事業主の社会保険料負担も増えることになるため、その原資を確保することが必要になってきます。 「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」 の活用も検討しましょう。
なお、厚生労働省の「社会保険適用拡大特設サイト」では、事業主が負担する社会保険料がどれくら
い変わるのか試算できる「社会保険料かんたんシミュレーター」が公開されています。一度確認してみると良いでしょう。
各種手当の見直しが必要に?
福利厚生の一環として、一定の条件に合致する従業員に対して、住宅手当や家族手当等の手当を支給している会社も多くあります。「配偶者控除の適用対象かどうか」を各種手当を出す条件の1つにしている会社の場合、今回の改正に伴い、その条件の変更を検討するところもあるでしょう。あわせて、福利厚生制度や給与規程等の見直しが求められる場合もありますので、早めの対応が必要です。
年末調整事務が煩雑になる
今回の改正は、令和7年分の所得税については年末調整で対応することとされています。令和7年分については所得によって基礎控除の額が変わることから、年末調整事務が煩雑になると見込まれます。
そのため、毎年11月頃から行われる年末調整手続きを、今年は前倒しで行うと良いでしょう。例えば、①「扶養控除等申告書」の記入の仕方について従業員へあらためて周知する ②提出された「扶養控除等申告書」等をチェックする期間として1週間程度余分に確保する――などです。特に、毎月月初に給与等の支払いを行う会社の場合には、早めに年末調整手続きを進めることが求められます。
出典:TKC事務所通信